これはアダムの歴史の記録である。神は人を創造されたとき、神に似せて彼を造られ、男と女とに彼らを創造された。… アダムは、百三十年生きて、彼に似た、彼のかたちどおりの子を生んだ。… アダムはセツを生んで後、八百年生き、… アダムは全部で九百三十年生きた。こうして彼は死んだ。(創5:1-5)

…… 彼はその子をノアと名づけて言った。「【主】がこの地をのろわれたゆえに、私たちは働き、この手で苦労しているが、この私たちに、この子は慰めを与えてくれるであろう。」レメクはノアを生んで後、五百九十五年生き、…レメクの一生は七百七十七年であった。こうして彼は死んだ。(創5:29-31)

(1)アダムの歴史の記録

創世記五章は、章の初めに書かれているようにまさしくアダムの歴史である。アダムから数えて九代、レメクまでの長い年月(930年)を、アダムはこれら大勢の子孫たちと共に生きて、主の民が繁栄するのを見たのである。アダムはレメクの死より前に、またノアが誕生するより前に死んでいるが、レメクまでの八代の家長たちや家族に、また家系図には書かれていない圧倒的な大多数を占める子供たち、孫たちなどの子孫に、創造の時の様々なことを、その信仰を事細かに語り聞かせたことだろう。こうして日常において神の豊かな香りが漂う環境下に育てられた子孫は、創造主への信仰、尊敬が知らぬ間に血となり肉となって信仰の土台が自然に築き上げられていったことだろう。

アダムとエバはカインのアベル殺しという悲しく辛い体験をしたが、それ以外は大した事件は起こらなかったのだろう。この事件がいつ起こったのかは書かれていないので不明であるが、後継者となる子どもが与えられた時に、エバが「アベルの代わり」と命名したことを考えると、セツを主が与えられたのは、アベルの死後余り時間が経たないうち、この殺人事件の1-3年以内と考えても良いだろう。アダム歴130年に後継者セツ(アベルの代わり)を与えられ、その後アダムは800年生きて多くの子供たちを設け、930年の生涯を生きて、死んだ。ちなみにエバが何年生きたかは書かれていないが、セツを生んだ後にも多くの子どもに恵まれたので、長寿を全うしたと考えられる。

セツは105歳で後継者エノシュを生み、全部で912年生きて、死んだ。エノシュは90歳で後継者ケナンを生み、全部で905年生きて、死んだ。ケナンは70歳で後継者マハラルエルを生み、全部で910年生きて、死んだ。マハラルエルは65歳でエレデを生み、全部で895年生きて、死んだ。エレデは162歳でエノクを生み、全部で962年生きて、死んだ。エノクは65歳でメトシェラを生み,365年神と共に歩み,神が彼を取られたので,彼はいなくなった。メトシェラは187歳でレメクを生み、969年生きて、死んだ。レメクは182歳でノアを生み、全部で770年生きて、死んだ。

このように、人は、生まれて、生きて、死んだという歴史を繰り返して今に至っている。その一生が初めは九百年以上の長い年月であったが、今は100年も生きたらボロボロになってしまう状態である。健康寿命はそれよりさらに短い。何故、寿命が短くなったのかということについては、ノアの洪水を学ぶ時に、少し詳細に考察したいと思う。

(2)妻たちはどこから来たのか

聖書には、アダムからノアへ、そしてそれからアブラハムへと信仰の家系はかなり詳細に書かれているにも拘わらず、その妻たちに関しては書かれていないに等しいほど沈黙を守っている。神の手で直接創造されたエバを除いて,他の妻たちについては、その名前も書かれておらず、出自も書かれていない。二代目セツの妻はどこから来たのだろう?三代目、四代目、五代目、六代目、それぞれの妻は地から湧き出たのであろうか?七代目神の人エノクの妻は?八代目メトシェラすなわちノアの祖父の妻、九代目レメクすなわちノアの父の妻、すなわちノアの母はどこから来たのだろう?そして、洪水を家族と共に乗り越えたノアの妻さえ,どこから来たのか,どういう名前であったかなど何も分かっていない。

カインという名前は「悪人」の代名詞として使われるように,カインの家系は信仰者セツの家系から隔離されていると、無意識下に見なされている。それを誰も不思議に思わなかったことは,次の笑い話のような実話が語り継がれていることからも伺い知ることが出来る。

ある時、キリスト教の代表者の神父と世の哲学者との公開討論において,カインの妻はどこから来たのかと訊ねられた神父は答えられなかったという話である。この神父が何を考えていたかは分からないが,ただキリスト教界の代表として論争をしたのであるからキリスト教界の全体を表しているのだろうが,お粗末極まる話だと思う。彼らの頭の中にある舞台、世界は,アダムとエバとカインと殺されたアベルしかいなかったのかも知れない。

(3)地球をひっくり返した大洪水

ノアの時代に大洪水によって,地球も人類も一掃されて,選ばれた動物だけが箱船により救われ,人類もノアの家族八人だけが救われ,後は洪水の泥水の中で滅び去ってしまった。こうして、地球史はともかくも再出発した。

私たち人類が知っておくべき歴史として神がまとめて示されたのは,洪水後の一大事「バベルの塔」の事件、その後神の救いのメッセージを頂いたイスラエル民族の選択とその歴史、そのダビデの家系を通して神の子、救い主イエスキリストの誕生、そして十字架上の死、昇天に至る一連の歴史である。アダムが犯した重大な犯罪のために,そしてその罪が代を重ねるにつれて増幅させてきた人類の罪は膨らむだけ膨らんで破裂寸前の状態に至っている。誰の目にも,地球が悲鳴を上げていることが明らかに見えるだろう,地球の断末魔の悲鳴が聞こえるだろう。そして,神の御姿に造られた人類が腐って悪臭を漂わせ,断崖絶壁から真っ逆さまに落ちていこうとする寸前、あわやという状態にあるのである。

今後の歴史の経緯、すなわち未来に起こることも聖書に簡単に示してくださっているが(神から預かった言葉、預言である)、いかんせん私たちには明確には分からないとしか言いようがない。ただ、神の導きに従えば、間違いなく明るい未来が待っていると約束されているのである。アダムとエバにお示しになったように、創造主の護りの中に入れて頂きさえすれば、それは豊かな明るい未来が約束されているのである。

時系列に従えば、次に起こった重大事件は、地球全体を覆い尽くした大洪水である。ただ、ノアの洪水については多くの人々が、あらゆる機会に詳細に語っているので、このシリーズでは後に回したいと思う。むしろ、人類史にとって極めて重要であるにも拘わらず余り語られない「バベルの塔事件」について、一緒に考えたいと思う。